題が未だ無い小説(第七章)

 〜第七話〜
 やはりまだ残暑があって、半袖夏ズボンと言う形で学校に通うことにした。長かった夏休みもやはり短かった。何で楽しい時間は早く過ぎるのか知りたいね。竜崎姫と出会ってから俺の日常は超常へと変わったものの、やはり日常と変わらぬ生活を過ごしていた。龍神秀(デグラシア)の十翁(テンベイ)の二人を倒し、さらに七守護竜(セブンスドラゴンズ)の七体目の竜、爆雷竜(ヴェルジオン)を呼んだのだ。それに爆雷竜の鱗も貰い、家に大事に飾っている。
 俺が通う箱庭龍聖(りゅうせい)学園は何度も言うが、瓜二つのようにそっくりな学校の一つなのだ。もう一つが箱庭竜聖(りゅうせい)学園なのだ。だが、ここで問題が発生した。
 夏休み終了前日。俺は姫と会話していた。
 「サイト。お前は箱庭龍聖学園生徒だな?」
 「いきなりどうした?そうだぞ。俺は《龍》の方だ」
 何故か姫は考え事をしてこう言った。
 「一つ言っておくが、魔法が使える生徒は皆《竜》の方なのだ。《龍》の方で魔法が使えるようになったケースは少ない。あったとしたら、魔法が使えるようになった初日に学園のほうから手紙が届くはずなんだが、何で届かないと思う?」
 「え、そりゃあ俺は《龍》から外されていないって事だろ?」
 「それも一理あるが、私が考えていることは《龍》の方にも魔法生徒を導入しようと考えているのかって事だ。そしたらサイトが《龍》の方から外されない理屈も通じる」
 「ま、明日直に先生に聞いてみるよ」
 「それが妥当だ」
 って事で俺と姫は今、職員室前にいる。
 「ひ、姫が行ってくれるか?俺、こういう所嫌いなんだよ」
 「サイトが行け。関係あるのはサイトだろ?」
 「い、いやでも・・・」
 俺は姫とやり取りをしていると、職員室から俺の担当の先生が現れた。
 名前は美人局 麗(つつもたせ れい)。二十代前半と思しきスタイルで。男子生徒には人気がある。女性ホルモンを多く出しており、男子が惹くことは百パーセントである。
 「おや、端山君に竜崎さん。どうかしたの?」
 俺は一度姫を見ると、どうやら姫は俺の後ろに隠れている。?何かあったのか?
 「あ、あの僕のことについて相談したいんですけど・・・」
 「いらっしゃい。相談室に」
 相談室は職員室の中にあり、そこで話し合いをするようだ。先生はその場所を教えて行く中、姫は俺の後ろに隠れっきりである。姫が呟く事が良く聞こえるのだ。「ありえない」と。何があり得ないのか知りたいのは山々だが、それは後にしておこう。
 俺と姫が入って先生が入ったら、誰にも漏らさない様に鍵を閉める。そして俺と姫は出されたパイプ椅子に座る。先生は長テーブルの反対側に座る。
 「で、どういうことかしら端山君」
 「僕は・・・えっと・・・その・・・」
 魔法と言うことを先生に伝えて良いのか全く分からない状況であった。だって、先生は魔法を使える人間では無いし、無関係者だし・・・。それに姫も手を貸さないのである。さっきからずっと、呟いているのだ。一体どうしたものか・・・。
 「ちゃんと用件を伝えるのよ、端山彩人君」
 先生はフルネームで僕の名を呼ぶ。本当に困ったものである。誰か助け舟を出してくれないかな・・・。
 俺は黙って考えていると、先生はこう言い出した。
 「・・・ふぅ。それは禁則ではないから伝えてもいいのよ。魔法のことなんて」
 「はい、そうですね・・・って」
 今、重要なことサラッと言わなかった?
 「端山彩人君が魔法を使えるようになって、《龍》なのか《竜》なのか分からないから相談しに来たんでしょ?」
 「な、何で分かるんですか?」
 ここまで黙っていた姫がやっとのことで喋りだした。
 「彼女は私の、竜姫翁(メイルピア)の姫、美人局麗姫だ」
 「よろしくね、端山彩人君」
 「ってことは・・・」
 「そうだ。私があり得ないと連発して呟いていたのはその事なのだ。姫、何故このような場所に就いているのですか?」
 「もし、こちらで魔法生徒が出たら対処しきれなくなってしまうからこっちにいるのよ。端山君みたいに」
 先生の視線は俺の方へと向けられる。
 「で、サイトはどうなるんですか?」
 「勿論、こちらよ。まだ魔法には不慣れだし大丈夫かと私は思うんだけど・・・」
 「ふう、それは良かった・・・」
 「そう安堵するのも良いけど、貴女もよ」
 すると、姫(先生ではないほう。先生の場合は先生としている)は目を大きく開いた。
 「な、何で私もこちらに移転する必要があるのですか!!」
 「不慣れな端山君に魔法を教えるためよ。こっちにも対魔法生徒用教室を作っているからそこで魔法の特訓を毎日するのよ。一刻も早く守護班一番隊長に戻らないといけないから、貴女も特訓する必要があるわ」
 「すみません。守護班は大丈夫なんですか?」
 「ええ。でも、五番隊長がやられたから、ちょっと手厳しい状況なの」
 「五番隊長・・・。壁操作(ウォールアティア)の谷山 奈央美(たにやま なおみ)が・・・」
 「それに、強力な人物が入ったから攻撃班一番隊長は端山君にお願いするわ」
 急に俺に振られたので俺は動揺した。全く、話についていけない・・・。
 「えっと、どういうことですか?」
 「竜姫翁と龍神秀は対立しているのは分かっているわね?龍神秀の十翁の八番目、裂踊鎖(チューブリオ)の高田 舞衣(たかだ まい)が一人で襲来して守護班五番隊長を倒したわけ。守護班の力が弱まっている今、攻撃班の力を増幅したい訳なの。そこで、十翁の二人を倒した端山君には攻撃班一番隊長に務めて欲しいの。ほら、攻撃は最大の防御なりって言うでしょ?」
 「別に、いいですけど・・・」
 俺はそう言ったのだが、姫はこう言った。
 「サイト!勝手に決めないでよ。どっちか片方が決めてしまったらもう一人のほうも、了承しざるを得なくなるじゃない!!」
 「そうなのか?俺はそれで助かるんだけど・・・」
 「竜崎さん。2対1でこっちの有利よ。いい加減、諦めたらどう?」
 「うっ・・・」
 そして姫は沈黙してしまう。その沈黙から読めるのは、「わ、分かったわよ」と骨を折ってくれたようだ。
 「そういう事で、対魔法生徒用教室に二人が入籍しましたっと・・・」
 先生は何かを呟いて、俺らに魔法をかけた。姫は沈黙して放心状態になっているため、先生が何を唱えたのかすら聞けない状態だ。なので俺が直に聞いた。
 「先生。何をしたんですか?」
 「何もして無いわよ」
 と言う。怪しいと俺は思ったが、これ以上追求したら何かこちらにもされそうで止めといた。
 「で、その教室はどこにあるんですか?」
 「私が教えるから着いてらっしゃい。竜崎さんを起こしてね」
 「おい、姫。聞こえてるか?」
 どうやら姫は沈黙のついでに意識もあっち側に飛んでしまっているようだ。本当に困ったものだ。俺は仕方なく、おんぶすることにした。やはり、溜息をする回数が尋常だ・・・。
 その対魔法生徒用教室は意外にも職員室から近かった。その教室は何も使われてなくて、ただその教室に入った途端に魔力を感じた。
 「!この、満ち溢れる魔力の大きさは尋常じゃ・・・」
 「いいえ、尋常じゃないわ。ここは『対魔法生徒用』なのよ。こんぐらいがぴったりなのよ」
 俺は姫を壁にもたれさせ、先生に聞きたいことがあったため、七彩剣(ななさいけん)虹蒼剣(レイン・ブローウ)を出した。
 「それが端山君の武器?」
 「はい。七つの色に変化が出来て、色ごとに効果が違うのと魔法が違う剣です」
 「また、興味が惹かれそうな物を持っている様ね」
 「ですが、無色のうちは弱いレベルの魔法だと魔法吸収が自動的に、高いレベル魔法だと「魔法吸収(デグラリバース)」と唱えれば魔法吸収が出来るんです。こんなに利点が多い剣を見たことがありますか?」
 先生は考え、こう言った。
 「私もたくさんの魔法使い達を見てきたけど、現に分かっているのは二点だけ。一点目は、この世には同じ魔名を持つ者は存在しない。二点目は、魔法使い達が急上昇している真っ只中であり、魔法は新しく発展しているのよ。だから、今時に存在し始めた魔法使い達の事なんて私は知らないのよ」
 「そう・・・ですか」
 先生なら分かっていると思ったけど違ったか・・・。
 「私はこれで退散するから、何かあったらまた職員室に来てね」
 「分かりました」
 そう言って先生はここから出て行く。鍵をかける音まで聞こえる。だが、そんな事を気にしていなくて、俺はただ剣を振り続けていた・・・・・・。
 「さて、何か肝心な事を忘れているぞ・・・」
 俺は今、変な汗をかきそうだった。もう一回、おさらいしてみよう。
 「先生はここから出て行く。鍵をかける音までが聞こえる―――」
 既に俺は変な汗をかいているのかもしれない。そして職員室であったことを思い出す。あの時、先生は何か魔法をかけたそうなんだが、張本人は何もして無いと、俺に告げている。だが、そうであれば俺は何故、こんな所で剣を振り続けているんだ?
 ・・・・・・!!
 俺は今になって先生の考えていることが分かった。先生はあの時、魔法をかける前に「対魔法生徒用教室に二人入籍しましたっと」って言っている。そこから単純に考えていれば、こういう結論になる。
 「先生は俺と姫の入籍クラスをここに変えたってことかっ!!」
 そして今に姫は起きた。
 「・・・ここは?」
 「ここが、例の教室だ。だが、先生の許可もなしにここ出られるかどうか・・・」
 「別にいいじゃないの。出なくても」
 俺は彼女が言った事について、呆然としてしまった。彼女は立ち上がり、身についてそうな埃をはらう。
 「ここで、私達の魔法が強化されるなら」
 姫は、リボルバーを引く。そして、俺に放ってきた。
 「のわっ!?」
 俺は左に前回転して避ける。銃弾は壁にめり込む・・・事無く、壁に当たる寸前で落ちる。
 「ここは結構幾十の魔法が掛かってるわね。これを壊そうとなると、現段階での二人の力では出られないわ。ここはそういう仕組みになっている」
 「じゃあ、どうしたら出られるんだよっ!!」
 「お前は今すぐ出たいのか?」
 「そりゃそうだろ!衣服どころか洗面所、風呂、食事が取れない状態で過ごせと言ってる様なもんじゃないかっ!!」
 「その魔法もかかっている。願えば出てくるだろう」
 姫がそういうので、俺は何の必要性も無いティッシュを願いだす。・・・・・・。
 するとどうだろう。俺の目の前にそれが現れて、消えていく。必要性の無いものはやはり、消えていくか。
 「そういうことだ。サイト」
 「強くなれるのかな・・・」
 俺は嘆き、溜息する。これから波乱万丈の魔法特訓日々があるとは思わずに。