題が未だ無い小説(第八章)

 〜第八話「悪の企画書」〜
 周囲はとてつもない暗闇に囲まれており、太陽の光すら届かせることなく、ある一つの要塞はそこに滞在していた。その要塞の名は「龍神秀(デグラシア)」。そこには五御王(フィンディア)と舞鳳美(ヴィーイッジ)、超破誠(メタリアル・ブレイク)が住んでいる。先日まで、十翁(テンベイ)の五番目から一番目が滞在していたが、ある、任務の遂行中なのだ。五人全体が動かなければならない特大な任務。
 そして、その超破誠が貴族が座るような高貴な椅子に腰をかけていた。
 「つまらん。実につまらん。何かないのか、舞鳳美よ」
 右手にワインが入っているグラスを持って、彼女に告げていた。そう、現にこの中にいる人たちの位で言うと、超破誠が一番上なのだ。舞鳳美は超破誠の命令を忠実に従う秀才な人員なのだ。
 「そう言われましても、零様の気分を最高潮にして差し上げるような物はありません。すみません」
 「そうか・・・。この我輩を楽しませてくれるようなものがあればいいんだが・・・」
 そう、零様が言うと、柱にもたれていた五御王のうちの一人、光屋 雷人(ひかりや らいと)がこう言った。
 「じゃあ俺からいい情報をやろう。今回の十翁は荒れる。そして、竜姫翁(メイルピア)の方に超有力な人員が増えたとの事。これはどうだ零様」
 「ふん、実にくだらん。たかが蟻一匹増えたところで、我輩の『悪の企画』は破滅しない」
 グラスの中にあるワインを全て飲み干し、そのグラスを後ろへと放り投げる。当然、グラスは割れるかと思ったが、後ろに立っていた五御王の一人、神風 仁(かみかぜ じん)が持っている台の上にちゃんと着地する。
 「神風。ワイン追加」
 「かしこまりました」
 神風はそこから厨房へと向かう。
 「・・・で、光屋。その蟻一匹の情報は集まっているんだろうな?」
 「現在、集めているところですよ。そして今、分かっていることは、かの有名な七彩剣(ななさいけん)虹蒼剣(レイン・ブローウ)を持った一般の男子高校生だけですよ」
 「七彩剣・・・か。昔までは欲しがっていたのだが、今はそれをもたやすく木っ端微塵に出来る相当代物を我輩は手に入れているんだからな」
 そう言って、彼が鞘から抜いたのは、黄金に輝く刃を持つ、金剛硬重剣(ダイヤ・ヘヴィー)だ。
 それは太古昔からこの龍神秀によって守りきられていた。どんな最悪な状況でも、それを使ったものはいない。それどころか、この剣の存在を知っている物は零様の先祖ぐらい。それにはあり得ないほどの魔力を封じ込めており、封印を解くと共に、この世を終わりへと迎えてしまう、史上最悪の剣。
 すると、神風が零様にグラスを渡す。
 すると、とても退屈だった零様がこう呟く。
 「神風と光屋。その竜姫翁の蟻を倒してきてくれないだろうか。たかが蟻一匹。すぐに倒せるだろう。そいつがどんなのか、とても知りたくなってきたぞ」
 零様はグラスを軽めに振っている。勿論、答えは―――。
 『了解、零様』
 言うと直ぐに二人の姿は見えなくなる。
 「お前も思わないか?舞鳳美。いや、月光 優姫(つきびかり ゆうひ)、反逆計画を望む者よ」
 「既に、思考を読まれていたのね?」
 「ふん。我輩はこれを待っていたのだ。戦を。我と手合わせしたいと思うのか?」
 「無論、ここで貴様を殺す。我の両親の為に!!月爛明(ムーナイデ)!!」
 零様と彼女がいる場所は月の光によって埋められる。彼女にとって、これはいいと悟ったのだろう。だが、ここで彼の魔法を侮ったら駄目だ。
 「・・・消エロ・・・」
 誰もが使う日本語。だが、彼は魔法を超越する、未だ名も無い能力を所持しているのだ。意味も彼自身しか知らない。
 最強を誇る魔法を瞬時にして闇へと変換する。が、彼女の姿は見えない。
 「・・・姿ヲ現セ、地ニ伏セロ」
 零様は座ったまま、唱えた。
 すると、彼女は零様の前に現れ、地に伏していた。
 「がはっ・・・」
 「小細工ごとき、この我輩にでも通用すると思ったのか?反逆計画を企てた張本人よ」
 「ふふっ。私は貴方に一生、ついてくつもりだったわよ。でもね、その『悪の企画書』の事を知って、倒そうとしたのよ」
 「あれを見られたのか。門外秘出だから、お前には口封じとして死んでもらおう」
 未だに地に伏している彼女に、呪文を追加した。
 「・・・命令ナキ者、今以ッテ窒息シテ死ネ」
 「わたし・・・は、まだ・・い・・きる・・・の・・・よ・・・・・・」
 彼女は空しく、息を引き取ってこの世から存在しない存在へと変わった。だが、ここからが彼の『悪の企画』に則って行動するのだ。
 「・・・魂亡キ者ヨ、今以ッテ我輩ノ使徒トナレ」
 さっき、この世から消えた人の体が勝手に動き、立ち上がる。その目は、文に表せないほどの黒さを秘めていた。そして、零様を前にして跪く。
 「零様。我、意識無き者としてこれから貴方の使徒に勤めさせて頂きます」
 「よかろう。では、我輩について来い」
 零様はグラスに入ったワインを一気に飲んで、グラスを後ろに放り投げる。当然、受け取ってくれる者なんていない。グラスの割れた音が聞こえるが、彼らは無視をしていた。
 「分かりました」
 零様と彼女は、奥の部屋へと行く。