題が未だ無い小説(第九章)

 〜第九話〜
 夏も過ぎ、秋晴れとした天候が続く。少しからず、夏の残暑がありつつも、季節は秋へと向かい始めていた。
 そんな中、「端山」と書かれたプレートが張られている家からは、いつものように、普段どおりに騒がしかった。
 苦笑交じりの表情をしつつも端山は姫を見ている。
 そう、今日は姫が急に「料理したいから手伝え」と、言われたため、姫の助手としている。二人とも、エプロンをしていて、姫は何に対して防御をしているのか、マスクに眼鏡、頭巾、手袋、足袋などと着用していた。
 「・・・姫さ、そんなに防がなくても大丈夫なんじゃないか?」
 端山は姫に言ったのだが、姫はこう言った。
 「わ、私は「科学」という事を知らないわ。いつも魔法で済ませていたけど、たまにはこう言うのも良いんじゃないのかなって思って。だから教えてって言ってるでしょ?」
 「分かった、分かった。俺でも初歩的な食事しか摂らないけど、この際上級のを作れるようにしてみっか」
 こうして、二人して料理の時間がやってきた。

 「・・・・・・」
 龍神秀(デグラシア)の十翁、八番目の魔名が裂踊鎖(チューブリオ)、人名が高田 舞衣(たかだ まい)は、「端山」と書かれたプレートを見つけた。
 彼女は何を迷っているのだろうか。戦か?それとも違うことなのか?
 数分経って、周囲を見回す。同然、誰もいない。昼間だと言うのに、外には人気が無い。
 彼女は決意して、ポストの中に二通の手紙を入れた。端山宛てと、姫宛て。

 数十分、いやニ時間ぐらいたっただろうか。二人してキッチンにいて、料理をしていたら既に三時前になっていた。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 端山は端山で、上級ランク的な料理を懸命に作っている。
 姫は姫で、世に存在しないような食べ物を作っている。
 そして―――。
 「「出来たっ」」
 二人の声がハモる。同時に出来たそうだ。
 「これ、作るのに時間が結構かかったな。こんなに時間かかるとは予想もしてない」
 「私は初めてだから、ミスったりしたけど、出来たよ」
 当の料理は冷蔵庫に収納され、片づけをしていた。
 そんな時、チャイムが鳴った。インターホンで確認すると、何かの配達便だそうだ。
 「ああ、俺出るから片付けよろしく」
 「はーい」
 端山は玄関へ向かい、ドアを開けると、そこには帽子を深く被った青年がいた。
 「すみませんが、この方はどこに住んでおられますか?」
 唐突に住所欄を端山に見せる。端山は何の疑問も思わず、それに対して言った。
 「はいはい、山内さんのお宅ね。それはあっち方面へ行って、二個目の十字路を左に曲がればありますよ」
 「ありがとうございます」
 「いえいえ」
 そう言って配達便は端山の指示通りに行く。端山は家の中に戻ろうと思い、ポストの中を見れば、手紙が入っているのに気づく。それを持って家の中に入る。
 「ん・・・?俺と姫宛てか。差出人は不明っと。俺のはポケットの中に入れて置こう」
 そう言って、端山は左ポケットに手紙を入れて、キッチンに戻った。
 「誰なの?」
 「ああ、入ったばかりの配達屋さんだそうだ。住所を教えてくれと言ったから、教えただけだ」
 「ふーん」
 「それと、姫宛に手紙が届いてるぞ」
 「私?」
 姫はキッチンからこちらへと来る。二人横に並んでソファに座って、姫はその手紙を開封する。
 「サイト、これ挑戦状だわ」
 「何?挑戦状だと!?こんな時代にでもそんなのはあるんだな・・・」
 端山は自分宛の手紙の事を喋ろうとはしない。
 「姫、全貌を読んでくれ」
 「うん、分かった。
 〜灼竜姫(アクウォンミーナ)へ
  私は貴方に挑戦を挑む。
  今日の三時半、町外れにある何も無い広場にて待っている。
  貴方の付き添い、端山彩人には来ないように伝える事を望む。こちとら、サシ勝負を望むから。
  来なかったら、竜姫翁(メイルピア)の守備隊を順番に殺していく
                     龍神秀十翁八番目、裂踊舞、高田舞衣〜」
 「高田・・・」
 端山は何かしら聞き覚えのある人名だったのだろう。
 「サイト、知ってるの?」
 「いや、知らないな。高田なんて、この世にはたくさんいるんだからな」
 「そうだね。私はこれから向かうから、留守番よろしくね」
 そう言って、エプロンとかの重防御を全て脱ぎ、玄関から勢い良く飛び出して行った。

 ここからは主観で行く。俺は姫が出たのを確認してから、俺宛の手紙を読むことにした。
 〜端山彩人へ
  そなたには我らの願いを聞いて欲しいと思っている。敵ながら失礼だと思うが、すまない。本当に、手がこれしかなかったのだ。にしても、久しぶりだな端山。
  さて、本題に進む。この頃、龍神秀の方では結構大変だと私は、上から聞いた。どうやら、ラスボスがこの世を変える程の莫大な力を持っていると聞く。月光 優姫(つきびかり ゆうひ)が生きている間に聞いた事だが、「竜姫翁に端山彩人が入るだろう。彼を上手く利用して、奴を殺すんだ」とか言っていた。月光は現在、奴の使徒となっているので、既に亡くなっている。私がいるというのに、すまないな、本当に。で、だ。今すぐにでも、端山は学校の屋上に行かなければならない。上からの命令で、端山をその場所に呼べと言われたのだ。
  これだけは言っておこう。端山は死なない。貴方は何があっても、生き残るのだ。
                             古き親友、高田舞衣〜
 俺はとても悲しくなった。あの、月光さんが・・・。
 ・・・いや、今は泣いている暇なんて無い。屋上に行かなければならないのだ。
 俺は家中にある窓を閉め、カーテンを閉めてドアの鍵までも閉める。
 何故、出発前にこんなことするのかと言うと、最近、物騒な世代になっているらしく、盗難とか起きても過言ではないのだ。だから、用心だけはしておかなければ、大事なものが盗られる。
 そして、俺は屋上へ走って向かった。

 「やっと来たか・・・」
 「裂踊舞っっ。お前はこんな所に呼んで何がしたい?」
 私は言ってやる。こんな所に呼ばなくても、近い場所で殺り合えばいいのに。
 「何って、決闘よ。挑戦状を出しているんだから、それぐらい推察して欲しいわ」
 彼女は鎖をジャラリと鳴らす。
 「そのとてつもなく長い鎖が貴方の武器ね・・・?」
 「そうよ。人の首を巻いて引けば、一瞬にして死ぬわよ。あれは楽しかったわね。守備隊五番隊長を殺すときは」
 「!貴様、貴様だけは許さないっっ・・・」
 私は最大の力をかけて彼女と戦う。谷山の仇を討つために。
 「さあ、かかってきなさいよ」
 彼女は何かの呪文を唱え、鎖を宙に浮かす。
 「その、挑発に乗ってやるわ!」
 私は彼女に向かって走り出した。

 秋晴れとした天候は一気に崩れ、雲が出てきた。今か今かと降らんばかりの感じがする。
 俺は屋上に着く。そこには見慣れない二人の男子がいた。
 「やあ、端山彩人君。君と手合わせを願いたい」
 「俺も同じく」
 「まず、名乗れや」
 俺は今か今かと剣を呼ぶ準備に取り掛かる。
 「おっと失敬。僕の名は神風 仁(かみかぜ じん)。以後、お見知りおきを」
 「俺の名は光屋 雷人(ひかりや らいと)。覚えなくても結構」
 「始めまして、お二人さん。俺の名は端山彩人。覚えやがれっ!!」
 叫びと共に剣を出し、まずは光屋とやらと剣を交じり合う。
 「まずは俺からだ。手加減はせんぞ。こっちはいつだってコンボ技が出せる。いつでもお前は死ぬんだから、俺を楽しませろぉぉっ!」
 「うぐっ!?」
 俺は力を入れて耐えていたはず。なのに、それがいとも容易く砕かれたのだ。
 「な、何だ・・・。この強さ・・・。今までと戦ってきた奴らとは完璧に違う」
 俺は少々逃げ腰になる。姫の威圧、十翁の二人の威圧すら超越して、もはや超人としか思えない威圧が俺を襲う。そして足が竦む。
 「うらあああぁぁっ!!」
 光屋の叫び声で我に戻ったのか、俺は防ぐ。
 「うぐっ!?」
 け、剣がへし折れるぐらいの力を出してきやがる。こいつは力任せ過ぎねぇか?
 「危険を冒してまでも俺は大丈夫だと信じている。だからどんぐらいでへし折れるかなんて分かるんだよっ!」
 俺は膝を地に付いてしまう。今は彼の縦の攻撃を防いでるだけで精一杯だった。
 「ま、負けてたまるかっ!!」
 俺は押し返す。徐々に立ち上がり、彼とようやく対等した。
 「ほお、ちったぁやる気になったか?じゃあ、次は神風だ!!」
 突然力を抜いて引き下がるから、俺は前にこけそうになる。
 「突然離脱するな!」
 「今は自分の敵を把握するほうが良いのでは?」
 「いっ!?」
 俺が見た物は、神風の周りに沢山の剣が現れている。その数は・・・。
 「256本。これが僕の最大で表す事が出来る数なんです。じゃあ、行きなさい」
 それが矢継ぎ早に俺へと向かって飛んでくる。おい、剣じゃなくて槍じゃないか?
 そんな事はどうでも良く、俺は避ける事だけに専念していた。避けれないときはそれをはじいたりして。結果的にはかすり傷を沢山負っただけだ。
 「じゃあ、これはどうです?」
 今度は、俺の真上に槍が幾万本と現れて、今すぐにでも落ちそうな感じだった。
 違う。こいつらの次元は俺のと完璧に違う。勝てっこないって。呪文詠唱時間を全部省いてかつ、行動力が凄すぎる。
 「じゃあ、落ちなさい!」
 上から幾万と言う槍が落ちてくる。俺は落ちてくる一秒の間に回避する。あー。心臓がバクバク言っていやがる。俺が休憩している間は、彼らが何かしら会話していた。
 「どうだ、神風?」
 「僕はずいぶん楽しめたよ。光屋君はどうなんです?」
 「俺は・・・まあ、どっちかと言えば楽しめたぜ。そろそろ終わりにしようか」
 「光屋君ったら、忙しないですね。ま、それもいいでしょう」
 すると光屋は力を込めており、神風も剣を構えて力を込めている。
 俺はしくじったのか、逃げた場所が屋上の柵の手前で、逃げ場がなかった。くそっ、どうすれば・・・。
 力を込めてもいるのに、平然と俺の会話をした。
 「端山君、どうやらこっちの勝ちのようです。逃げ場がありませんからね」
 「てめぇは、ここで死ぬと確定してんだよ。そろそろリミットタイムだ」
 ジリジリと俺に向かってくる。遂には、後ろに逃げ去る場所すら失った。
 すると、決め台詞かのように、光屋はこう言った。
 「終着地点はここだったんだよ、端山。会えたら、来世で会おうな」
 そして二人はこう叫んだ。
 「十字斬(クロズクロス)!!」
 俺は剣使い失格だ。敵に背なんか見せてしまった。俺は背中に十字の傷を負って、柵を越えて屋上から落ちた。この学校は五階まである。そうとうな高さだ。そして俺が落ちる予想の場所はグラウンド。
 俺は生きていると信じながら、背中から大量の血を流しつつも落ちていった。